会員だより

三度の転機

奈良市議会議員　三浦敎次

（前高の原中央病院検査科技師長）

私は、青丹よし　奈良の都は咲く花の　薫うがごとく　いま盛りなりと謳われた古都奈良市の市議会議員として２期目を勤めさせていただいているわけでありますが、思い返しますと今までに大きな転機が三度も訪れているのであります。
　１８歳で岩手県から上京し、最初は医用電子工学を志したのでありますが、神奈川県下のアルバイト先の病院で検査技師という職業を知り、翌年には検査技師専門学校に入学することとなったのであります。　アルバイトをしながらの通学でしたのでろくすっぽ勉強に力が入らずあまり出来がいい学生とは言い難かったのですが、無事に３年間で学校を卒業し国家試験も一度で合格、晴れて検査技師となり生化学検査担当者としてデビューしたのであります。このことが最初の転機で、理科系の学問があまり得意じゃなかった私が検査技師となったばかりか、一番苦手な亀の甲を必要とする生化学検査の担当となり、これを飯の種として３０年間も技師生活を営むことになったわけでありますから、自分でも思いがけない人生のスタートとなったのであります。
　余談になりますが、初めての職場は５３０床もある東京都内の大病院で中央検査部には薬学部や獣医学部の卒業生および理科大学の夜間学生などといった優秀なスタッフが多かったために、専門学校卒業生である私は彼らに負けてたまるかとの気迫で懸命に猛勉強したことを今でも昨日のことのように思い出すのであります。
　次の転機は、妻の故郷である奈良に住むことになったことであります。東京で専門学校を卒業し、東京の公立病院に勤務していたわけでありますが、二人の子どもが成長するにつれてそれまで住んでいた民間の賃貸アパートでは手狭となり、それよりも広い住宅公団のマンションか住宅金融公庫付のマンションに移りたいと思い、募集があるたびに応募したわけでありますがどうしても当選することができず、結局、家内の故郷である奈良に住むことになったのであります。高校の修学旅行で奈良を訪れ、若草山の中腹で仲間と記念写真をとった思い出の地奈良にまさか私が住むようになるとは誰が想像したでしょうか。これも、住宅公団や住宅金融公庫の抽選に何回もはずれた結果のなせる業ではないかと思うのであります。
　そして、最も大きな転機は奈良市議会議員とならせていただいたことであります。私が勤めていた病院が住居のある平城ニュータウン内に有った関係で、地域と病院のかけはしという意味合いもあって相当早い時期から社会福祉活動に身を投じていたわけでありますが、そうこうしているうちに地区社会福祉協議会の会長に祭り上げられ、３年後には地区内の事情により地区自治連合会の会長をせざるを得ない状況となったのであります。その事情というのが、左京地区内に存在する奈良市清掃工場立替問題でありました。当時の市長は、あわよくば現地での立替えを画策していたわけでありますが、この事実を知らず市との協調路線をとろうとする連合会幹部と情報公開によりこの事実を知った住民が地区を２分して対立するようになり、後者の代表者から私に地区連合会の会長就任を強く要請してきたのであります。私は火中の栗を拾うことには大変躊躇したのですが、再三の強い要請にやむなく引き受けたのであります。その後、清掃工場問題対策委員会を立ち上げ清掃工場に関する歴史から勉強を開始し最終的に私たち住民は今何をすべきかについて研究に研究を重ね、その結果として清掃工場全面撤去の決議を行うことが妥当と判断し、市長宛に決議書を提出したのであります。この決議は左京地区住民の９０％以上の署名によるものでしたが、残念ながら市長からの回答は全く届かず住民の怒りはピークに達したのであります。そこで、やはり地元から市議会に議員を送り出さなければこの状況を打破することは出来ないとのムードが高まり私に白羽の矢がたったわけでありますが、当時、病院では診療技術部全体をまとめる技師長としてやりがいのあるポストにあったことと、妻から「議員に立候補するんだったら離婚してからにしてや」と言われたことなどにより最初は固く辞退させていただいたのですが、幼稚園や小学校、住宅に近接した清掃工場はなんとしても撤去しなければならないとの思いが勝り苦渋の決断をしたわけであります。幸いにして地域の多くの方々よりご支援を得ることができ無事に当選を果たすことができたのであります。しかしながら、このことにより長年勤めさせていただいた病院を辞めることにもなったのですから、私にとって最大の転機ではなかろうかと思っているわけであります。
　昔から、「人生には何回か転機が訪れるので、その転機を見逃すことのないようにとよく言われますが、残念ながらその時には気づかず、「ああ、あの時が転機だったのか」と後で気づくことが多いものです。私自身、大小合わせて何度の転機があったのかは定かではありませんが、今思い起こしてみますと大きな転機としては三度もあったわけで、人生の不思議さを感じる今日このごろであります。